夏目漱石を読む順番
迷ったら『坊っちゃん』から読む。語りが速く、一晩で読み切れる長さだからである。じっくり向き合いたい夜なら『こころ』、風刺を楽しみたいなら『吾輩は猫である』の拾い読みでよい。未完の長編『明暗』は最初の一冊としては見送る。
- 明かさない範囲
- 全作品を順番どおり読破する計画は立てない。順路は三冊まで、その先は読み終えてから決める
- 今夜の目安
- 5分
THE SHELVES
作品名だけでなく、「あらすじ」「意味」「読む順番」「挫折」「新訳」など、思い出せない場所や迷いの言葉からも探せます。
迷ったら『坊っちゃん』から読む。語りが速く、一晩で読み切れる長さだからである。じっくり向き合いたい夜なら『こころ』、風刺を楽しみたいなら『吾輩は猫である』の拾い読みでよい。未完の長編『明暗』は最初の一冊としては見送る。
迷ったら『走れメロス』から読む。短く、太宰の語りの速さだけを先に受け取れるからである。太宰の声をもう少し聴きたいなら『富嶽百景』、有名だからという理由で『人間失格』から入るのは見送ってよい。暗さは太宰の一面であって全部ではない。
迷ったら『鼻』から読み、『羅生門』→『藪の中』へ進む順路を勧める。人の目が気になる心理から、追い詰められた人の選択、語る人による話の違いへと、読む視点を変えられるからだ。発表順や必修の順番ではなく、証言を読み比べたい人は『藪の中』から始めてもよい。
迷ったら『山月記』を読み直すところから始めてよい。虎になった男の告白は、大人が読むと学生の頃と別の場所が痛む。漢文調の硬さが不安なら、弓の名人の話に笑いのある『名人伝』が入口になる。遺稿の『李陵』は最後に取っておく。
全部を読み直す必要はない。覚えていない一冊のあらすじで筋を思い出し、結末まで知るか伏せるかを自分で決めて、今夜は一場面だけ読む。この三歩を一冊ずつ繰り返すのが、大人の読み直しの現実的な形である。この頁は各作品と各作家への入口を並べた地図になっている。

「何かの役に立つから読む」という答えを、この記事は用意しない。古典を今読む意味があるとすれば、それは同じ本文が、読む側の年齢と経験で違って見えることを自分で確かめられる点にある。役に立てる義務から降りたとき、古典はただの面白い本に戻る。
朗読で聴くのは、立派な読書の型の一つである。目が疲れている夜や移動の時間に、耳から名作へ戻れる。著作権の切れた作品は本文が青空文庫で無料で読め、その朗読を無料で聴けるサイトもある。耳で筋をたどり、気に入った一節だけ文字で確かめる併用が続けやすい。
『こころ』は、語り手の「私」が鎌倉で出会った先生の秘密が、長い遺書によって明かされる長編である。先生は学生時代、親友Kと同じ人を思い、Kの死を抱えて生きてきた。本記事は結末まで書き、遺書が「私」に託したものを一つの読みとして示す。
『坊っちゃん』は、江戸っ子気質の「おれ」が四国の中学に数学教師として赴任し、教頭の赤シャツらの狡さに我慢ならず、同僚の山嵐とともに制裁を加えて学校を去るまでの物語である。本記事は結末まで書き、最後の一文が下女の清の墓で終わる意味を一つの読みとして添える。
『人間失格』は、大庭葉蔵という男の三つの手記を、はしがきとあとがきが挟む構成の小説である。人間の生活がわからない葉蔵は道化で人とつながろうとし、酒と女性と薬物の中へ沈んでいく。本記事は結末まで書き、書名の「失格」を外から見直す一つの読みを添える。
『山月記』は、詩人になり損ねた秀才の李徴が虎に変わり、旧友の袁傪に半生を語る短編である。本記事は結末まで書く。高校では才能と自尊心の話として習うが、大人が読み直すと、頼む順序を間違え続けた男の時間の話として刺さり直す——それを一つの読みとして示す。
『羅生門』は、職を失った下人が荒れ果てた門の下で雨宿りをするうち、楼上で死人の髪を抜く老婆に出会い、その言い分を聞いて老婆の着物を奪い闇に消えるまでを描く短編である。本記事は結末まで書き、最後の一文「下人の行方は、誰も知らない。」の読みを一つ示す。
『走れメロス』は、暴君に捕らえられた牧人メロスが、妹の結婚式のための三日間の猶予を親友セリヌンティウスを人質にして得て、刑場に走り帰るまでを描く短編である。本記事は結末まで書き、中盤でメロスが一度完全にくじける場面を軸にした一つの読みを添える。
『銀河鉄道の夜』は、孤独な少年ジョバンニが星の祭りの夜、親友カムパネルラとともに銀河を走る汽車の旅をし、目覚めたあと地上でカムパネルラの身に起きたことを知るまでを描く物語である。本記事は結末まで書き、「ほんとうのさいわい」をめぐる一つの読みを添える。
『ロミオとジュリエット』は、反目し合う両家に生まれた二人が出会い、ひそかに結婚し、行き違いの果てに霊廟でともに命を落とすまでを描く戯曲である。本記事は結末まで書く。青空文庫では坪内逍遥訳(訳者1935年没・パブリックドメイン)で全文を読める。